Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新たな髄膜脳脊髄炎「自己免疫性GFAPアストロサイトパチー」についての検討

2019年04月21日 | その他
髄液抗GFAPα抗体が陽性で,ステロイド治療が奏功する新たな疾患「自己免疫性GFAPアストロサイトパチー」が報告されている(JAMA Neurol 2016; 73: 1297-1307;Ann Neurol 2017; 81: 298-309).この疾患の臨床像はステロイドを含めた免疫療法が有効な髄膜脳(脊髄)炎で,特徴的な画像所見として傍脳室部の線状・放射状の造影所見と脊髄における中心管周囲病変を認める.約2割で悪性腫瘍を合併することも報告されている.しかし本邦における検討は十分ではないため,岐阜大学脳神経内科の木村暁夫准教授らを中心とするグループで検討を行った.

方法は,当科が経験した炎症性中枢神経疾患225例[自己免疫性疾患(自己免疫性脳炎,MS,NMO,MOG抗体関連疾患など)98例,感染性疾患58名,原因不明69名]と非炎症性神経疾患35例を対象として,cell based assay(CBA法)およびラット脳スライスを用いた免疫染色の双方で髄液抗GFAPα抗体を検索した.その後,抗体陽性例の臨床・画像所見や治療反応性を後方視的に検討した.

さて結果であるが,CBA法では炎症性中枢神経疾患225例中14例(6.2%)の髄液で抗体陽性で,ラット脳免疫組織染色でも全例でアストロサイトが陽性に染色された.抗体陽性の頻度は,当科が同一期間中に経験した抗NMDA受容体抗体脳炎と同等で(13名),自己免疫性GFAPアストロサイトパチーは日本人では決して稀な疾患ではないことが分かった.

抗体陽性例の臨床診断名は,原因不明の髄膜脳炎8例,ADEM 4例,抗NMDAR脳炎1例,梅毒性髄膜炎1例であり,平均年齢42歳,男女比は8:6であった.2例で腫瘍を合併し,いずれも卵巣奇形腫であった.その他自己抗体として,1例で抗NMDAR抗体を認めた.初期症状は発熱(93%),頭痛(79%)が多く,発症から入院までの日数は平均9.8日,経過中に意識障害(79%),髄膜刺激徴候(71%),振戦・ミオクローヌス (64%),腱反射亢進(57%),排尿障害(57%),小脳性運動失調(43%),精神症状 (36%),呼吸障害(29%)を認めた.

検査所見では,持続する低Na血症を高率に合併し(57%),SIADHに伴うものと考えられた.髄液検査では単核球優位の細胞増多(平均168/μL)と蛋白量の増加(平均183 mg/dL)を認めた.髄液細胞増多は遷延し,正常化が得られるまでに発症から数ヶ月を要した.多くの症例で急性期に一過性の髄液ADAの上昇を認めた。頭部MRI異常所見を64%に認めた.T2WIやFLAIRでは,大脳白質(A),脳幹(B,C),基底核(D)に高信号を認めた.また視床の後部の高信号(矢印;D,E)は,傍脳室部の線状・放射状の造影所見(矢頭;F)とならび本疾患に特徴的な所見と考えられた.

治療については,13例(93%)で,発症から平均14日目にステロイド点滴治療が開始され,7例(50%)でプレドニゾロンの後療法が平均177日間施行された.予後は良好でmRSの中央値が5(入院時)→2(最終観察時)であった.入院期間は中央値48日,後遺症として3例に排尿障害を認めた.再発例は認めなかった.

以上の検討で今回明らかになった点は以下の3点である.
1)運動異常症(振戦,ミオクローヌス,小脳性運動失調),自律神経障害(排尿障害),低Na血症を合併すること.
2)髄液所見では,単核球優位の細胞増多は数ヶ月持続し,急性期に一過性のADAの上昇を認めうること.
3)特徴的な画像所見として,視床後部に異常信号を呈すること.


本疾患における抗GFAP抗体の意義については,おそらく病原性はないと考えられている.既報では,GFAP特異的CB8+ cytotoxic T cellが病態に関わるという説や,他の未知の抗体が病態に関わっているという説が記載されている.ただし,一般的にcytotoxic T cellが関与する病態は免疫療法に抵抗性であるため,なぜ,本疾患は治療反応性が良いのかは明らかにされていない.抗GFAP抗体以外の因子(サイトカイン,ケモカイン,ミクログリアなど)が重要な役割を担っている可能性も指摘されている.

結論として,自己免疫性GFAPアストロサイトパチーは,本邦では決して稀ではなく,原因不明の髄膜脳脊髄炎やADEMでは鑑別診断に挙げる必要がある.ステロイド反応性は良好であるため,上記の特徴を念頭において早期に診断し,治療を開始する必要がある.

Kimura A et al. Clinical characteristics of autoimmune GFAP astrocytopathy. J Neuroimmunol.2019;332:91-98.


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